【禁煙アパート建築記1】想定入居者と付帯設備
敷地内全面喫煙禁止の集合住宅建築計画
建築を決意したものの、建築業界の職人不足の影響もあり、なかなか建築費用等で折り合いがつかず、建築業者の選定が難航していた。
その後、何とかコストダウンの工夫をしていただき、建築会社を決定し、いよいよ建築開始に向けて動き出すことになった。
今回は、アパート想定入居者から間取り、設備の選定について紹介したい。
敷地内完全禁煙のアパート完成予定は2020年2月である。
想定入居者
建築予定地域は比較的ファミリー物件が豊富で、築浅で広めの単身向け物件が少ない。まずこの調査結果からターゲットを単身者に絞ることにした。
非喫煙者で健康意識の高い想定入居者が「広さ・設備より家賃の安さ」を第一に求めているとは考えにくいので、戸当たり30㎡を確保する。
実は30㎡を仕切って1LDKにしてしまうと、一部屋が狭くなるうえに寝室のエアコンを追加で用意する必要があるなど、かえって1Kより暮らしにくいという説もある。
そこで対面キッチンを備えた広めの1K・1Rにできないかと提案したが、有効採光面積の関係でこれ以上リビングを広くするのは難しいとのことだった。
また、建築会社および管理・仲介会社から、「一般的な入居者の方にとっては1Kより1LDKで募集したほうが興味を持ってもらいやすい」との意見が出た。
必ずしも禁煙アパートの最適地域ではない
実際のところ、この地域は「外国人を含む単身の男性労働者」が多く、より禁煙物件の需要があると推定される「中流以上の単身女性」という入居者は少ないのかもしれない。
しかし、全国的に敷地内禁煙の集合住宅そのものがほとんどないことから、立地に関わらず全ての入居者層へ一定の需要があると考えている。今や男性も過半数は非喫煙者だ。
そもそも禁煙でないアパートを建築するつもりはなく、この案件は「喫煙率が比較的高い地方都市において禁煙アパートの需要があるのか、その入居者の属性に特徴はあるのか」といったマーケティングの側面もある。
付帯設備
賃料の安さを売りにしないという方向性から、間取りと同様に付帯設備もある程度充実させておく必要がある。
インターネット・Wi-Fiサービス
近年のトレンド設備は、インターネット(Wi-Fi)無料提供サービスと宅配ボックスである。いずれも導入に数十万円の費用がかかることから、費用対効果を考慮しなければならない。
5G時代の自宅Wi-Fi
インターネット無料設備は、入居者側で契約の手間がかからず、オンラインゲーム等のヘビーユーザーでないかぎりは魅力的な設備となる。
都市部ではWi-Fi無料物件は増えてきているが、地方ではまだ少なく、近隣との差別化になると考えられる。
しかし、5年は戦える設備であるものの、5Gが普及した時には魅力が薄れている可能性がある。もっとも、アパートWi-Fi業者は、5Gがらみの質問をよく受けるようで、「モバイル高速通信が普及したとしてもギガバイト料金単価が劇的に下がるとは考えにくい」という理由から、しばらくは自宅の固定回線需要は落ちないと回答しているようだ。
また、スマートハウスなど住宅のIOT化を進めるためには、固定回線がある方が都合がよいため、しばらくは求められる設備であることは間違いない。
大家には戸当たり2000円程度の維持費が、「空室でも」かかってくるというリスクがある。
宅配ボックス
宅配ボックスも必須になりつつある設備だ。今回は6世帯の計画なので、宅配ボックス2個が標準的な配分になる。
絶対個数が少ないので、恩恵が一部ユーザーに偏ってしまいかねないこと、業界で宅配ボックスの規格がまだ標準化されていないという課題がある。
女性にとって魅力的な設備
相対的に喫煙率の低い女性を意識した設備の導入は積極的に行いたい。
具体的には、風呂の追い焚き機能、浴室乾燥機、屋内物干し、単身向けとしては広めのキッチンを標準設備とした。
また、今回の物件は小規模であり、設計上もオートロックの導入が困難であったため、防犯設備としてエントランスから駐車場をカバーする防犯カメラを設置する予定である。
Edy対応カードキー
IOT対応設備の導入も検討したが、まだ賃貸物件向けの設備は少なく、一部大手ハウスメーカーで導入事例が見られる程度である。
AIスピーカーと対応照明器具の導入程度であれば、完成後に容易に追加できるし、大きな訴求力があるとは考えにくい。
そこでスマートフォン時代の設備としては、LIXILのショールームで実際に試して具合のよかった「カザスプラス(Edy対応カードキー)」を導入することにした。
今のところiPhoneでは使えないが、Androidのおサイフケータイ、汎用Edy対応カード、キーホルダー型Edy内蔵キーをかざすだけで、施錠・解錠ができる。
完成時期
順調に進めば2020年2月に完成予定であるが、繁忙期中に満室に近い状態に持っていくためのスケジュールがややタイトである。
しかし、この先は自分の力ではどうにもならない部分が多いので、天候に恵まれることを祈り、建築会社の派遣する職人さんに頑張っていただくしかない。
禁煙アパート建築の野望〜集合住宅において、吸う人と吸わない人は共存できない〜
禁煙アパート建築の野望
以前より暖めていた、禁煙アパートの建築計画を進めていくことにした。1棟目は親が相続して放置していた築古空室アパートの土地活用を検討している。
融資の問題等、超えなければならないハードルがいくつかあるので、最終的に完成に至るかどうかは分からないが、この経験は「完全禁煙の集合住宅を提供する」という野望の今後の展開に活かされるだろう。
禁煙アパート建築記シリーズの序章として、喫煙禁止の集合住宅が必要とされる理由について説明しておきたい。
※本来は「喫煙禁止」と表現すべきだが、一般的になじみのある表現としてあえて禁煙アパートと呼んでいる。
※※ここでの「禁煙」の定義は、電子たばこ、加熱式たばこを含むあらゆる依存性薬物の使用禁止である。
プライベート空間における受動喫煙被害
2018年に成立した改正健康増進法により、喫煙天国の日本においても飲食店をはじめとする公共空間の喫煙規制が少しずつ強化されてきた。
しかしながら、個人の居住空間における規制はなく、家庭内受動喫煙による子供の深刻な健康被害や集合住宅におけるベランダ喫煙トラブル、たばこの不始末による火災など、たばこ関連の悲劇は飲食店以外でも枚挙にいとまがない。
喫煙禁止の集合住宅が必要とされる理由
ベランダ喫煙問題
アパート・マンションにおいては、住民同士の距離が近いうえに建物の一部を共用しているため、たばこ関連トラブルが起こりやすい。
近年、集合住宅におけるベランダ喫煙トラブルが多発しており、受動喫煙による健康被害によって裁判にまで発展した例がある。
ベランダでの喫煙に対し、 損害賠償命令が出された事例/名古屋地方裁判所 平成24年12月13日 | 大阪市マンション管理支援機構
喫煙者の家族の健康被害や自室のヤニ付着を防ぐために、隣人の洗濯物を汚染したり他人の健康を奪うことは許されない。
加えて集合住宅のオーナーや管理会社には、入居者が居室内で健康で文化的な生活を営めるよう適切に管理し、精神的苦痛や健康被害が生じないようにする義務がある。
換気扇喫煙問題
上記のベランダ喫煙トラブル増加の影響もあり、室内の換気扇の前で喫煙するケースも多い。
しかし、たばこの煙は換気扇の排気口からベランダ方面、共用部の廊下方面に流れ出るのであるから、「犯人」が分かりにくくなっただけで状況としては大きな違いはない。
しかも大規模マンションなど機密性の高い建物の場合、排気ダクトが共用になっている場合もあり、換気扇から他人のたばこの煙が流入してしまうことさえある。
※これは筆者も実際に体験しており、一時期、謎のタバコ臭がキッチンに漂っていたことがある。調査によって換気扇が流入元だと判明した。
どんな部屋でも空気の入れ替わりは必ずあるため、喫煙者が同じ建物内で喫煙したら受動喫煙被害を防ぐことはできない。 集合住宅で隣に喫煙者が住んでいるという事は、喫煙所の隣で生活しているようなものである。
無用な火災リスク
火災リスクの増大も無視できない。近年の喫煙率の低下にもかかわらず、住宅の主要な出火原因はたばこである。
集合住宅のたばこトラブルを防ぐ禁煙アパート、禁煙マンション
ここまで見てきたとおり集合住宅においては、喫煙者と非喫煙者は共存する事ができない。しかし、日本で供給されている集合住宅のほとんどに喫煙者が住んでおり、ベランダを含む共用部分喫煙禁止のルールが定められているケースはあるものの、室内の喫煙を禁じているケースはほとんどなかった。
そんな中、近年の喫煙規制の流れに呼応して少しずつではあるが、禁煙アパート、禁煙マンションが供給され始めている。
大家にとってもメリットが多い完全喫煙禁止の集合住宅
賃貸住宅でトラブルが起きた場合、たいてい退去するのはトラブルを起こした側ではなく被害者側である。
さらにたばこの煙による居住設備の劣化が起きないことなど、退去時の原状回復費用トラブルの原因も少なくなる。
喫煙禁止住宅という選択肢
禁煙アパート、禁煙マンションが増えてきたとはいえ、わざわざニュースになるほどに数は限られており、個別の地域で見た場合にはまだ選択肢がないというのが現状である。
個人で建てられる集合住宅の規模は小さく、全国の非喫煙者に選択肢を与えられるほど拡大することはできない。
それでも完全禁煙の集合住宅運営の成功事例が増えることで、ビジネスとして大手企業も参入するようになり、スモークフリーの集合住宅が選べる時代が来れば幸いである。
参考リンク
近隣住宅受動喫煙被害者の会